僕はリンゴを落とした。リンゴは坂を100メートル程も転がっていったが、ちっとも小さくならず、かえってスイカぐらいに見えた。
僕は落ち葉を踏みながら、林の中リンゴを追いかけた。
リンゴは誰か男の人が拾いあげるところだった。「僕のリンゴです!」と少し大きめの声で駆けよって、リンゴを返してもらった。
その時、近くにいた、多分その男の娘だろう、まだ小学校に上がるかどうか位の少女の、「こんな時はリンゴを食べませんかと聞くものよ。」という声が僕の頭の中に
したような気がしたので、「リンゴいかがですか。」と言ってみた。
少女は首を横に振った。
リンゴはしたたか傷ついていた。
僕はリンゴをじっと見つめる。しっかり自分のものにしたければ、さっさと食べてしまうのが一番だと思いながら。